中国吉林省 長春市科創谷科学研究都市    
都市全体マスタープラン及び先行街区建築概念設計         
    設計 株式会社岡本隆建築設計 2023年構想検討完了

作画 CG 上海ArchiBIM  スケッチ 湯浅 禎也                              

中国吉林省 長春市科創谷科学研究都市    
都市全体マスタープラン及び先行街区建築概念設計         
    設計 株式会社岡本隆建築設計 2023年構想検討完了
中国長春市政府からの委託で 長春市中心部から南東に12キロ離れた農業丘陵地訳650ヘクタールを新たに科学・創造谷産業園区として開発するにあたっての全体の都市整備計画のマスタープラン作成を行った。政産学研究イノベーション協力連合基地、重大科学技術インフラ集積区、研究型医療センター、高品質イノベーションサービスセンター、新農業応用変換基地、医用光電情報創造研究基地、航空応用研究拠点、文化創造拠点、創智生活区など9つの産業園区からなる想定。 またそのマスタープランに基づいてその一部を先行街区として 建築方案概念設計を行った 研究基地とそのサポートのための商業・宿泊などの施設で 敷地面積約24ヘクタール、延べ床面積は36万平方メートル。
プロジェクト発足の背景

内容

初めてその敷地に立った時
コロナの時期で敷地を直接見ることができず 現地の協力者に現地に行ってもらって動き回りながらの動画で順次状況を確認した。広大で茫漠とした敷地だが 高さにゆっくりした変化があることと中央に大きな湖があることが景観づくりの重要なかなめになるだろうと考えた
デザインの変遷と最終結果いわゆる「マスタープラン」は建物を具体的に想定することを避け 一般論として敷地や道路などを扱うが 華為キャンパスの設計経験から 実は建物の具体的な姿を想定したうえで道路や都市インフラを考えていくほうがはるかにしっかりとした都市コンセプトを創り出せると考えていたので たとえ後で個々の建物が別の考えで作られるとしても 大まかな公共的な方向付けを作っておく「マスターデザイン」という方式を提案し了解してもらった。 大変な作業だったがこれにより 普通は用途別に色分けするだけのマスタープランが すべての道や交差点・緑地にはっきりとした景観の指針を持つものとなった。

設計過程の議論の中で

研究所・大学と住宅開発が一体となった街づくりはたくさんの事例があるが成功例はあまりない。中国での参考事例を調べ 日本国内でもけいはんな学研都市の状況を視察したりする中で 各ゾーン 例えば住宅ゾーンと研究ゾーンが明確に分離され 各研究施設用地相互も分断されて 施設間の交流・統合性が拒否されている強い印象を受けた。研究のセキュリティーを重視するあまり 研究者同士の何気ない交流 研究者が住宅の住民となることの街生活の快適さなどが軽視されている。実はこの交流こそが沖縄科学技術大学院大学では世界最高水準を目指すためにどうしても必要と求められたものであるのに。 最先端の研究・居住街区をマスタープランするにあたって まずこの交流的活動をどうやってうまく誘導できるかを重要課題とした。

設計中の困難

中国はもっと孤立主義で 大学を設計するときにはとその中に学生寮がどれだけ 運動施設がどれだけ 娯楽施設がどれだけ などと国家基準で割り振られている。例えば深圳に中国の有名大学3つが一体として集まった深圳学園都市というものが作られたが 結局各々の大学が自分の宿舎や体育館・運動場を持つ広大なキャンパスが隣接してあるだけで 中央に共用施設と呼ばれる図書館などはあるものの 学生同士が交流することを奨励するような構成をとっていない。 実際に学生たちにはあまり評判がよくない。このような分断はいたるところに知らないうちに幅を利かせてくる。そして実際の土地利用者は現実を突き付けてくる。けいはんなも研究施設の誘致は進まず 一部の研究施設想定用地には結果として酒のディスカウントストアなど 近隣住民を対象にした商業施設が建っている。国際性を意識してしっかり作られた研究施設の前にダイソーのハコが建っているという風景。このようなことを直視しながらいかにして次世代の融合的な街を生み出せるようなマスタープランを創り出すかが課題だったが それは今までの土地を区画してうまく分譲するための区画割りとしてのマスタープランとは大きく異なるもので 発注者側への丁寧な説得が不可欠だった。

プロジェクト期間中の『最大のピンチ』と突破

中国の一般的なマスタープランの概念とこちらが創り出そうと提案する「まったく新しい街づくりの手法」とのギャップ。これは実際にこのマスタープランを受け取って困難を覚悟でやり抜く姿勢が事業者にないと埋められない

最後まで貫いた設計上の理念

創新のためには楽しめる街を

建築設計として我々は高性能で高品質の最先端研究施設を作り出します。しかし単体としての研究施設の優秀さだけでは創新を生み出す環境としては十分ではありません。そこで働く研究者やそれを支援する人々 その研究を発展させる人々の生活全体が生き生きとしたものであってこそ 研究生活にも活気が生まれ創新を進めていけるのです。一方で「生活区」と呼ばれる住居ゾーンも住宅がよく設計されているだけでは本当の高品質な生活は生み出せません。ただ住まうだけでなく その周りの多様な活動 食事をしたり友人に会ったり 運動をしたりといった 多様な活動が身近でできることが 生活を真に豊かにしてくれます。そこで大切にしないといけないのが街としての「楽しめる場」をしっかり作ることです。人々が集まり語らう場所 多彩なレストラン・カフェ 買い物のできる通り 芸術に触れる場所 スポーツのできる場所 が働く場所や住まう場所と一体となって身近にあること それらが多くの人にとって使いやすい開かれたものであることが 科創谷という開発区を本来の街として魅力あるもの 人々がそこで働きたい そこに住みたいと思うものにしてくれるでしょう。科創谷がそのような「楽しめる街」となるために 最も根本的な観点は その「楽しめる場」が活気を持てること 来訪者が十分あり 高いレベルのサービスが提供し続けられることです。そのためには街としていつも人々の動きが活発であることが求められます。その重要な戦略として 開放・交流発展型の街づくりをこのマスタープランの基本方針として提案します。

今までの施設づくりとして 大学や研究所といった各機関レベルで内部に身近に必要な機能を確保する(例えば食堂や売店、体育施設 状況によっては宿舎など)ことで利便性を確保しようとする自己完結的な考え方がありました これらは内部が充実されればされるほど必然的に他の街区との往来が少なくなります。また各街区は大きなものになるので 塀で閉じられた街区間の歩行は遠く 自動車などでの移動に頼りがちになってしまいます。残念ながらこそして一度自動車に乗ってしまうと 人々はより快適で便利な場所へと遠く走っていったしまいます。こうして街はばらばらになり 自動車が走り回る。これは残念ながら世界中の新開発区で見られる現象です。

これに対し我々が提案するのは開放交流発展型で 各街区を閉じたものとせず 各街区の中に開放された「街として楽しむ機能」を意図的に混在させ 人々が街区の境界を越えて往来が活発に起こるようにします。また高品質服務区画と名付けられた複合開発街区の可能性として 我々はこの街で働く若者たちに着目し シェアハウスやワンルームアパートメントなど若者たちのニーズ・生活スタイルに合わせた住居を作り 戦略的に商業・オフィス・運動施設と複合させたものとして組み立てることを提案します。これにより若者たちが街の賑わいに参加し街を活気づけてくれます。

また外来者(Visitor)の重要性にも着目します。研究施設やビジネスへの訪問者・見学者やこの地区全体への観光客といった外来者はレストランやショップ、文化施設、ショールームなどにとって極めて重要な顧客層です。幸いにして科創谷は 長春市内から車で30分 中国屈指の観光地である浄月湖森林公園から車で10分以内の距離にあり 長春市内中心部との連携 浄月湖観光エリアとの連携は 科創谷そのものを重要な観光訪問都市の訪問拠点となりうるでしょう。これらの周辺の観光地と共に、観光地としての側面を持たすことで、訪問者を呼び込んで、街の活気をさらに高めることになります。

 

科創谷開発区は、開放交流型発展型を取り入れることで、街を交流を起こす場として開発計画を行う。

様々な交流を起こす仕掛けをマスタープランの中で計画し、その交流で生まれる活気を

そのまま、街の発展のエネルギーとし、持続可能な街としていく。

完成後嬉しかった瞬間

結局 コロナのため現地には行けず 現地の当局者にも会えなかったが 日本で立ち上げた協力者チームは苦労を共にした戦友となった。 

うまくいった部分と予想外の部分

3分歩けば風景が変わる 10分歩けば世界が変わるという標語を作った。 研究機関あり文化施設あり ホテルあり高層マンションあり低層住宅あり運動施設や学校もある。そして巨大な湖を中心に公園が系統づけられて展開する。これをできるだけ車の移動だけに頼らずに 歩いて楽しめるものに創り出していこうとした。 都市計画なので実際に立ち上がったものを見る立場にないが このようなネットワークづくりが少なくとも計画上は可能であることが分かったのは大きな成果だと思う

振り返って反省したこと

コロナでなければ クライアント側とのもっと頻繁なやり取りができてよかったと思う

設計裏話

多くの大胆な提案をした。例えば水問題。長春では雨が大変少なくどの川もほとんど水がなくなってしまう。しかし生活用の水は必要でそれは水道管を通って各施設に運ばれ 下水道を通って処理施設に流れていく。 この生活の水循環を使って 各施設で幕処理などで高度の処理を行った水を公園や風景の水として使えば 一年中美しい水の風景が守られ 狩る下水道の施設も大削減できる。街スケールでこのようなことは大きな政策変更でありよほどの実行力がないと実現できないが もち実現で切れば これまでの「中国北方の水不足」に対する大きな解決試作となっただろう。
もう一つはデータセンターの暖房熱源利用。長春は1年の半分以上が零下でしかも冬の冷え込みが―40度にもなる。この寒さを利用して冷却の必要なデータセンターをこの開発地区に積極的に誘致すれば 電力消費を節減できるだけでなく データセンターが発生してしまう熱を今度は周辺施設の暖房熱源に使って 周辺施設のエネルギーコストも下げられる。
このような検討は私にとって大変興味深いもので多くの資料を調べたり 協力者に意見をもらったりして報告を作ったが 市政府側では 一般的に行われている従前のやり方を切り替えるというだけで大変大きな心理的ハードルがあるようで 結局は紙の上の提案にとどまった。アイデアを実際に動かすには 事業者側の柔軟で大胆な姿勢が不可欠だと痛感した。